立春に元春、である。
佐野元春 and The Hobo King Band Tour 2008 「Sweet Soul,Blue Beat」を観に行った。
「Epic Sony 25周年」の記念ライブで、一度だけ佐野元春の姿を拝んだことはあるものの、佐野元春単独のコンサートは実は初めてである。
観たい観たいというこちらの思いとは関係なく、なかなか青森には近づかなかった元春。青森での開催は十数年振りのことになるらしい。
会場の青森市民センターは、青森駅から至近距離にある。18時を過ぎたあたりから、明らかに元春目当てと思しき人たちが、パラパラと会場の方に向かって歩いていく。
僕はと言えば、畏友ザワ先生と青森駅で待ち合わせ、会場に向かうことにしていた。事前に入手していたセットリスト。おおよその公演時間とその内容。
ザワ先生は「楽しみを取っておきたい」ということで、僕が入手したそれらの情報提供を頑なに拒んでいた。
このため、アルバムは全部聴いておくように、とか、長丁場になりそうだ、という「ヒント」だけを伝え、当日を迎えたというわけだ。
といっても僕自身、セットリスト全てを頭にたたき込んでいた訳ではなく、1曲目が何であるか、ということ以外は、どういった順番で何の曲が演じられるのか、ということまでは覚えないようにしていた。
開場時間の18時30分過ぎに会場に到着。ちょうど開場となったらしく、2階ロビーへと続く階段に並ぶ人たちが、徐々に動き始めている。
我々も列に並び、いよいよ入場。思ったほど混雑もなく、スムーズに入ることができた。CD・DVDを販売するコーナー、そしてツアーグッズを販売するコーナーには黒山の人だかりが…と言いたいところだが、思ったほど混雑している訳でもなく、難なくキーホルダーとバンダナを購入した(各@1,500円)。
我々の座席は、前から3列目の真正面。ファンクラブでもないのにこんな良席が確保できたのは、それ相応の手段を講じたことによる結果であることは、以前このブログでもお話ししたかも知れない。しかし実際席に座ってみると、ステージからは至近距離にあり、しかもステージの高さがそれほどでもない。このため、なだらかな階段状になっている3列目は、ステージからの目線とほぼ同じ目線の高さにあり、毛穴も見えそうな距離である(実際コンサートの最中、元春の汗が飛び散る様を幾度か目撃)。
ザワ先生は、こんないい席だとは思っていなかったらしく、ホントに驚いていた。と同時に、こんな良席を確保したことに対し、何度もお礼を言ってくれた。
幕が下ろされたままのステージ。間もなく開演のアナウンス、そして今日のステージが二部構成になっている旨のアナウンスが流れると、会場からはどよめきにも似たざわつきが起こる。客層は男女半々と言ったところだろうか。白髪の老婦人から小学生と思しき少年まで、非常に幅広い。
それにしても、開演の19時が迫っているにもかかわらず、客の入りは今ひとつである。2階も含めキャパ800名ほどの会場に、8割も入っているのだろうか、そんな感じだった。
十数年振りにやっと果たされた青森でのライブなのに。青森には元春のファンが思ったほどいないのだろうか。
正直、ちょっとガッカリした。
:::以下ネタばれだらけにつき注意!:::
19時05分。会場が暗くなる。黒幕に投影されたのは古めかしいテープを流すかのように加工された映像が流れる。
ピアノにぽつんと座る元春が投影されたその瞬間、ステージが明かりで照らされた。スクリーンと同じ姿の元春が、眼前にいる!おおっ!近いっ!近いぞ!思わず声が出てしまう。
黒いジャケットに白いシャツ、そして黒いハットに黒縁の色つき眼鏡。アルバム『COYOTE』のジャケットに掲載されている姿にかなり近いいでたちである。
昨日【速報】として流したセットリストを見て頂いてもおわかりのとおり、80年代の楽曲と直近のアルバム(The Hobo King Bandが絡んでいるアルバム)からの選曲。特に冒頭4曲は、80年代前半のアルバムからの楽曲を中心に、非常に渋い選曲である。恐らく、初期からのファンにしてみれば、これだけでも感涙モノのセットリストではないだろうか。
「こんばんは佐野元春です!青森市に何年振りかな?久しぶりに来れたことを嬉しく思っています!」
会場がドッと沸く。しかし、それ以外にMCらしいMCはほとんどなく(「どうもありがとう」ぐらいかな)、淡々と演奏が続いていく。
ステージ上を見ても、派手な演出や凝った仕掛けは一切なく、楽器や演奏するメンバーがある意味「演出」になっている。
「それじゃあ、アルバム『THE BARN』からの楽曲を何曲か聴いて下さい。」
「7日じゃたりない」では、先に松たか子と入籍したギターの佐橋佳幸がボーカルを取るという場面も。
このあたりから観客も徐々に熱くなり(僕は既に熱くなり過ぎていたけど…苦笑)、「Young Forever」では会場全体から歌声が聞こえ始めた。
そして、アルバム『Visitors』からこの日唯一の演奏となった「ワイルド・オン・ザ・ストリート」、「この曲を知っている皆さんも一緒に歌って下さい」と始まった「Young Bloods(←実は僕が佐野元春にのめり込んだのはこのあたりからなのだ)」…よーし、一気にヒートアップだ!と思ったら「それじゃ、15分後にまたお会いしましょう」って、ええー?ここまで暖めておいていきなり休憩かよ!時計を見ると、開演から1時間足らず。ちょ、ちょっと休憩に入るのが早くないかい?と、拍子抜けしてしまった。
この時点で一番気になっていたのは、最近しきりに「落ちた」と囁かれている元春の声量。これは多分ステージ音響や自分がいる座席の場所のせいもあると思うけど、元春の声があまり聞こえなかった。でも、やっぱり年齢も年齢だから声量が落ちてしまったんだろうな…。大丈夫かな、この後のステージ…(音響が気づいたのか元春の声量が落ち着いたのか、声が聞き取りにくいという問題は、第二部開始の時点で解消)。
そんな心配をしていると再び古田たかしのドラムから第二部がスタート。それにしてもバンドメンバー、錚々たる顔ぶれである。 古田たかし、佐橋佳幸、Dr.KyOn、井上富雄に山本拓夫…これだけでもお腹一杯の顔ぶれなのに、このメンバーの中心にいるのが佐野元春なのだ。
そんなことを考えていると、白のシャツにシルバーのチェックのベスト、グレーのハットを被った元春が登場。
「新しいアルバム『COYOTE』から何曲か聴いて下さい。」
ここでツアータイトルにもなっている「Sweet Soul,Blue Beat」という歌詞が含まれた「君が気高い孤独なら」。
一緒に唄い、踊りながら、何だかホンワカした気持ちになる。
「僕が新しいレーベルを立ち上げたこと、みんな知ってる?あの時は、皆さんから本当にたくさんの声援を頂きました。それじゃ、新しいレーベルから最初のアルバムとなった『THE SUN』から何曲か聞いて下さい。」
『THE SUN』からの曲を立て続けに2曲演奏し、「君の魂 大事な魂」の演奏が始まると、会場のボルテージは一気にヒートアップ。
ここからは、これでもか!と言うくらいに元春に打ちのめされる。声量?危惧していた僕がバカだった。全く問題ないし、何よりも、元春やバンドメンバーがとても楽しそうに演奏しているのが、観ているこちらにも伝わってくるし、その楽しさを共有できることに、優越感にも似た悦楽を覚える。7,000円というチケット代を遙かに超越した音楽の価値。今目の前で繰り広げられているステージを、僕らは心ゆくまで十二分に堪能しているのだ。こんな楽しいコンサートを観ないなんて…。
『Cafe Bohemia』に収録された「ワイルド・ハーツ(この曲も大好きだ!)」を挟み、そして静かに始まった「ロックンロール・ナイト」。
会場は静寂の中、元春の姿を凝視している。
観客は男女問わず、涙腺が徐々にゆるみ始めているのがわかる。他聞に漏れず、もちろん僕も…。
じっくり、じっくり、歌詞を噛みしめるように聞き入る。最後、Dr.KyOnのキーボードが終わるまで、じっくり、じっくり…。
鳴りやまない拍手に、ハッと我に返る。辛うじて落涙の一歩手前で涙は止まった。
いよいよ本編のクライマックス。『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』から唯一演奏された、というかもはや誰もが知っている「約束の橋」、そして「サムデイ」「アンジェリーナ」とたたみ掛けられ、僕はもはやTKO状態に陥った。
アンコールの声に吸い寄せられるかのように、再び登場した元春とHBKバンド。
元春は黒いポロシャツに身を包み、眼鏡も帽子も外し、髪の毛がシルバーに輝いている。
「今日は青森で最高のライブにしよう!」
観客、大はしゃぎ(笑)。
これでもか!これでもか!の怒濤の演奏。僕はもう、いつ倒れてもおかしくない状態(笑)。
頼む。こうなったらこのまま朝まで演奏してくれ…。
しかし無情にも時は過ぎる。
「僕はみんなから言われるんだ。ちょっと考え方が若い、ってね!」
そういって演奏されたのは「ソー・ヤング」「彼女はデリケート」
僕はもう、手が腫れて手拍子もできない。
「またそう遠くない時期に、この街・青森に戻って来ようと思います。今日はどうもありがとう。」
この日一番の拍手が会場から沸き起こる。
「みんな、80年代に僕がラジオのDJをやっていたことは知っているかな?僕は今でもラジオが大好きなんだ。」
そう言うと、Dr.KyOnが「悲しきレイディオ」の前奏を弾き始める。BO GUMBOS時代から、一種憧憬を抱いていたDr.KyOnが、目の前にいる。そして、今にも弾けそうな笑顔でピアノを奏でている…。嗚呼、なんたる贅沢!!他の観客はもう、恍惚状態に陥っている。
「ポケットには今にもこぼれ落ちそうなくらいの…」「ポケットには…」「ポケットには…」…と何度も何度も自分が履いている黒いパンツの空のポケットをひっくり返す元春。「ポケットには今にもこぼれ落ちそうなくらいの…ハートブレイク!」
老若男女問わず、80年代にタイムスリップしたような、そんな雰囲気。
しかし、何だこの高揚感は!?
「アイ・ラブ・ユー」「ユー・ラブ・ミー」の掛け声合戦が始まる。会場のボルテージは最高潮に達し、そして遂に終演を迎えた。バンドメンバー紹介に続き、地元(青森?)のローディーさんが紹介された。最後はバンドのメンバーが何故かフルートを片手に袖に下がり、元春も深々と頭を下げて去っていった。こうして、3時間にも及ぶコンサートは幕を閉じた。時計を見ると何と22時!
ありがとう元春。寝不足と筋肉痛と声枯れ決定ですっ!
確かにここ最近彼が登場したテレビやDVDを観ても、声量のダウンは免れないと覚悟していたが、このコンサートでは全くそんなことを感じさせなかった。
勝手な想像ではあるが、第一部は喉の調子を見る「試運転」(コンサート中に試運転も考えてみれば失礼な話だけど)で、第二部は本格的に喉を唸らせる、みたいな感じ。シャウトもしていたし、凄いノリノリだったし。
「新作からの曲を披露しつつ、佐野元春オールタイムベストとでも言うべく80’s、90’sのエヴァーグリーンなマスター・ピースを揃えたセットリストとなる」との事前の触れ込みにウソ、偽りはなかった。
ただ、強いて言えば、彼のキャリアの中でも一番ポップでキャッチーなアルバム『Sweet16』や『Fruits』、実験的なアプローチがふんだんに盛り込まれた『Stones and Eggs』からの楽曲は一つも演奏されなかったし、「99ブルース」「インディビジュアリスト」などの社会的要素を含んだ楽曲もほとんど演奏されなかった。「ガラスのジェネレーション」も演らなかったか。ちょっと残念。
しかし、それなりに年齢層が高くなったオールドファンにも十分楽しめるし、90年代からのファンにも十分堪能できるコンサートであったことは、紛れもない事実である。
個人的には、元春のコンサートをフルで堪能するのが今回初めてだったが、初めてではないような気分に浸ることができた。
卓越した手腕のバンドメンバーの演奏を間近で観ることができただけでも興奮したし、何よりも、「あの」佐野元春が、自分の目の前、それも手の届きそうな距離で歌い、笑顔を浮かべているというだけで、十分興奮してしまった。
宴の後は妙に切ないものだ。
帰りの電車は、22時23分発弘前行きの特急。客もまばらな電車にザワ先生と乗り込み、それぞれ感想を語り合う。
共通して言えたことが一つ。「凄いコンサートだった!(笑)」。 ザワ先生は青森と弘前の中間である浪岡駅に自分の車を置いて青森にやってきたので、浪岡駅で下車した。
独りになり、余韻を楽しむ。
楽しかった、という思いよりも、感動した、という思いの方が強く、何やら放心状態に近い感覚が未だ残っている。もちろん、手の痛みも(笑)。
ツアーはまだ前半戦。お近くにお越しの際は、必見の価値有り。観て損はないです(笑)。

Hey! Baby want you dance with me.
いつもの友達も初めてのやつも
Tonight! こんなに集まってくれてThank You!
Hey! Baby want you dance with me.
Welcome to the Heartlandは今でもやってるんだねー。
So Young、デリケートも健在か。
懐かしいなー。
元春のライブはずいぶんと見てないよ。
また観に行きたいな。
元春は21年見ておりません。
ビジターズツアーが最後になってしまっていますが、このレポを見るとまた行きたくなりますね。
あの時も2部構成で、最初が1時間45分、パート2が2時間でした。
終わってふらふらだったのを覚えております。
>>masaさん
元春も年取った感は否めませんが、ホントに青森のあの会場で空席があったということが、非常に痛いしもったいない、そんな気分にさせられるステージでした。
現在はHeartlandからThe Hobo King Bandへと変わりましたが、素晴らしい演奏を見せてくれます。是非機会があればご覧下さい!
>>おおすぎさん
おおすぎさんも古いファンですもんね。今でも二部構成で3時間ですから、古くからのファンの人たちには、違う意味で結構堪えていたみたいですよ(笑)。
>このレポを見るとまた行きたくなりますね。
これ以上ない最高の褒め言葉です。そう思って頂けるだけでも嬉しいです。
どうもありがとう(元春風に)。
Somedayの頃からTokyo Monthlyの辺りまでは殆どのライブを見ていて、The Hobo King Bandになってストリングスを入れての武道館が元春を見たのが最後かなぁ?
今でもこんなセットリストなら見てみたいので次回のツアーあたりに行ってみようと思うよー。
masaさんが観ていた時代は、元春が一番脂の乗った旬の時期だったと言っていいんでしょうね。
今は吟遊詩人みたいな感じにもなってきましたが、「いぶし銀」ですね。The Hobo King Bandも、とても洗練されたメンバーといえば大げさかも知れませんが、個人的にはかなりツボです。
新しいアルバムをメインにしたツアーとなると、このご時世ですので客の入りは見込めないかも知れませんが、今回のように新旧織り交ぜながらの懐古主義的なツアーであれば、古くからのファンが食指を伸ばす可能性は十分ありますからね。ちなみに今回、青森市は14年振りだったようです。また観たいと思いますが、同じぐらい待たされるのはちょっと…(笑)。