Category Archives: 作家気取り

職場で着用しているカーディガンの袖口に、綻びがあるのを発見した。1円玉が入るくらいの大きさだろうか。気づかぬうちに開いていた、小さな穴だった。
…僕は思い切って、その穴に身を投じてみることにした。
ヒュウ〜ッ…ゴォーッ…キーン…
鼓膜に圧力が掛かり、冷たい風が顔を覆う。
周囲はあっという間に闇に包まれ、やがて地面のような場所に全身が叩きつけられた。

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初雪

今朝の最低気温は3度。
最高気温も10度に届かないらしい。
うっすらと白く覆われた山肌。
冷たい風が、鋭利な刃物のように頬を撫でる。
霙交じりの雨は、散弾銃のように身体を打ちつける。
鉛色の空を見上げ、ハーッと息を吐く。
真っ白な息が、冷たい空気と同化した。
身を剥がされ、骨だけになった傘が転がる路上。
朽ちた枯れ葉は雨に打たれ、歩道の上にへばり付く。
コートに身を纏い、いつもより先を急ぐ人々。
路上に横たわる初雪の残骸を踏みしめる。
この街が白く覆われる日も、遠くなさそうだ。

僕は小さい頃、満月がとても苦手でした。なぜだかわからないけれど、あのまん丸でヌボーッと現れる満月が苦手でした。トイレの窓から月が見えるのが嫌で、トイレに行くのも躊躇するくらい、苦手でした(満月の日の「おねしょ率」は、かなり高率だったはずです)。多分、前世で月にまつわる何かがあったのでしょう。
月は満ち欠けをします。新月になると、細い月が現れます。
でも、月は元々まん丸。月がホントに細くなったのではなく、大半が陰になっているんですよね。分かりきった話だけど。
そんな月の陰の部分が表舞台に上がるのは、皆既月食の時だけ。
みんなが陰を見ようと、空を見上げます。
でもホントは毎日毎日、明るい月の隣に寄り添っているのに。
丸くなければ月じゃありません。月が満ち欠けをするのも、月が丸いからこそ。
そして陰があるから、月の明るさは際だつのです。
そんな月の陰の部分のような存在でありたいと、ふと思いました。

いくら涙を流しても
涙が枯れることはない
どれだけ涙を流しても
思いが晴れることもない
流した涙は川となり
やがて川は大河となる
大河はいつか海にたどり着く
塩辛い塩辛い海にたどり着く
僕らは涙に流されていく
涙の川に流されていく
やがて大河に飲み込まれ
いつか海にたどり着く
いくら泣いても気づかれず
泣いて泣いて泣き疲れ
そして僕らは果てていく
海の真ん中で果てていく

(無題)

このままでは、壊れてしまう。
みんなも俺も、壊れてしまう。
誰にも言えぬこの苦しみ。
誰にも語れぬこの痛み。
このまま日は昇らないのか。
闇の世界に葬られてしまうのか。
いっそ全てをリセットしたい。
非情な現実。
全てが真実。
見えぬ敵の前に無力な俺。
突き進む勇気と引き下がる勇気。
天秤は大きく揺れている。
闇の中に光は、まだ見つからない。