先日、映画『Michael』を鑑賞した。考えてみれば映画館に足を運んだのは、Princeのドキュメンタリー映画『Beautiful Strange』以来だった。もともと映画を観る習慣があまりない僕だが、この作品は映画館に足を運んでも観る価値があると判断したのだ。
作品自体の感想は多くのレビューで語られているので割愛するが、何より印象的だったのはMichael Jacksonを演じた2人の圧倒的な再現度。本人がいるかのような所作や表情に引き込まれた。「音の良い映画館で観るべき作品」という評判にも納得である。ただ、描かれていたのが「半生」であり、アルバム『BAD』以降については続編が製作されるような匂わせもあった。
僕がPrinceの熱心なファンであることは、このブログでも幾度となく綴ってきたが、80年代のポップミュージックを代表するもう一人の巨人、Michael Jacksonについては取り上げたことがあまりなかった。
(映画のサウンドトラック。ジャケ写の佇まいがMichaelそのもの)
理由はいくつかある。実は、PrinceもMichaelも全盛期を過ぎてから本格的に聴き始めたこと(『Thriller』も『Purple Rain』も大ヒットしていたことは知っていたが、実はリアルタイムでアルバムを聴いていない)。そしてMichaelはPrinceと比べると作品数そのものが少なく、触れる機会が限られていたことも大きい。それでも2004年発売の『The Ultimate Collection』は発売日に購入したし、アルバムも数枚保有している。
PrinceとMichaelには数多くの共通点がある。
* 常に時代の先を行く、あるいは時代を象徴する音楽を生み出したこと
* 黒人アーティストとして業界の常識を変えた先駆者であったこと
* 一方で黒人か白人かの人種差別を歌で取り上げていること(例えばPrinceであれば「Controversy」、Michaelであれば「Black or White」などなど)
* 他のアーティストに計り知れない影響を与えたこと
* 幼少期の家庭環境が決して恵まれていたとは言えなかったこと
挙げればきりがないが、この二人が80年代以降の音楽史を塗り替えた存在であったことは間違いない。
残念ながら僕はMichaelのステージを生で観る機会に恵まれなかった。しかし映画『This Is It』や『The Ultimate Collection』に同梱されたDVD『Live in Bucharest』を通じて、その圧倒的なパフォーマンスを観ることはできた。特に彼が手掛けたショートフィルムは、単なるミュージックビデオの枠を超えた映像作品であり、新作が発表されるたびに驚かされ、心を躍らせた記憶がある。
1980年代、この二人は常に比較の対象だったように思う。
世間のイメージは単純で、Michaelは光(あるいは陽、更には善)、Princeは影(あるいは隠、更には悪)。Michaelは王道(あるいは健全)、Princeは異端(あるいは卑猥)。そんな構図で語られることが多かったように思う。しかし実際は、両者は全く異なる個性を持ちながら、独自の方法で頂点に立ち、地位を確立したアーティストだったといっていいだろう。
興味深いのは、お互いの存在を強く意識していたにもかかわらず、本格的な共演がほとんど実現しなかったことだ。
有名なのはMichaelの『Bad』で予定されていた共演の見送りである。PrinceがMichaelとの共演を避けたようにも見えるが、その背景には単純なライバル意識だけでは説明できない複雑な感情があったのかも知れない。
一方で、今回の映画『Michael』では、Michael自身がPrinceを意識していることが窺える場面も描かれていた。世間では「PrinceがMichaelを意識していた」と語られることが多いが、実際にはMichaelにとってもPrinceは無視できない存在だったのだと思う。
二人が同じステージに立った数少ない例として語り継がれているのが、1983年のJames Brownのライブだ。Michaelが華麗なパフォーマンスを披露した後、Princeがステージに呼び込まれ、結果として何とも喩え難い展開になったことは有名である。改めて観るとあの場面は、二人の違いを象徴する出来事だったし、PrinceがMichaelと距離を置くトリガーだったのかも知れない。
(最後のオチはPrinceファンとしてはとても複雑です。笑)
また、両者を結ぶ重要な存在として忘れてはならないのがJimmy JamとTerry Lewisだ。彼らはPrinceが手掛けたThe Timeのオリジナルメンバーであり、The Time脱退(というかクビになった)後は敏腕プロデュースチームとしてJanet Jacksonの『Control』『Rhythm Nation 1814』をプロデュース、さらにはMichaelとJanetのデュエットナンバー『Scream』にも関わった。
『Scream』のレコーディング時、MichaelはJanetのボーカル録音場所を尋ね、「ミネアポリスだ」と知ると、自分もそこで録音したいと言ったという逸話が残っている。(出典元:amass )
Princeの本拠地として知られるミネアポリスの名を耳にしたとき、Michaelの中にどのような思いが芽生えたのか想像すると興味深い。
PrinceもMichaelも、すでにこの世にはいない。
しかし、PrinceのファンにはMichaelのファンが多く、その逆もまた然りだと思っている。音楽性は異なっていても、同じ時代を過ごし、互いを刺激し合いながら歴史を作った二人だからこそ、今も彼らを語りたくなるのだろう。僕は、彼らが第一線で活躍する時代に彼らの音楽に触れることができて本当に良かったと思っている。
ライバルであり、同じ時代を駆け抜け、そして20世紀のポピュラー音楽史を代表する二人の天才。その関係性はこれからも、僕ら多くの音楽ファンを惹きつけ続けるはずだ。


