月別アーカイブ: 2011年2月

父よ!

帰りの電車で、以前見かけたことのある、父にそっくりな男性が僕の真向かいに座った。まるで何かに引き寄せられるかのように、僕の真向かいに座った。年の具合、髪の毛の色、そのボリューム、皮膚の色、質感、眼鏡のフレームまで、まるで父がこの世にまた現れたような錯覚に捕らわれる。
父と異なる点を幾つか見いだすとすれば、父ほど髪の毛が縮れていないこと、父より幾分背が低く、そして痩身だという点だ。
そして、僕を虚ろな夢から目覚めさせる決定的な相違点。それは、父は決して赤い色のジャンパーには身を包まないということだ。
そんな父にそっくりな男性と対峙した僕は、まるでその男性の背後にある何かに興味があるかのように視線を送る。決して怪しまれぬよう、決してその男性と目が合わぬよう、男性の向こうにある窓の外の景色に向けるふりをして、父に似たその男性のディテール一つ一つを確認するように、遠巻きな視線をチラリと送る。
混雑する電車内、僕とその男性を遮るものはない。しかし、2メートルにも満たないその距離は、僕と父ではない赤の他人のその男性との間に、深く決して越えることのできない大きな溝を築く。
そう、これでいいのだ。父はもうこの世にはいないのだから。
しかしその男性は、一体どこからやってきてどこに帰るのだろう。そんな下世話なことを考えながら、そっと目を伏せる。
とめどなく溢れる父への思い。決して僕の中から消えることのない、父の残像…。
父よ!僕たちは慎ましやかに、そして健気に生きています。願わくば、父よ!一度でいいから!もう一度あなたに会いたい。そして父よ!もう一度あなたとじっくり膝を交えて話がしたい。
二度と叶う事のないそんな儚い夢を抱きながら、父への思いをそっと心に秘めながら、僕たち家族は父の分まで生きている。
いや、見えない父の後押しを受けながら、僕たちはこの世で生かされているのかもしれない。

統一地方選の「前哨戦」?

果たしてこれは、今まで絵に描いた餅となっていた「地域主権」の始まりなのだろうか。それとも…。

2月6日午後8時過ぎ。テレビには「愛知知事選・大村、名古屋市長選・河村当選確実。名古屋市議会は解散。」の文字が一斉に躍る。開票開始から3分も経たずしての出来事だった。

予想どおりといえば、予想どおりの結果でもあった。
愛知県知事選と名古屋市長選、名古屋市議会リコールの住民投票のトリプル投票は、結果的に市議会のリコールと自らの辞職という「差し違え」を演じた河村前市長の思惑どおりの結果となった、といっていいだろう。

僕は愛知県民でもなければ名古屋市に何の縁もゆかりもない。が、果たしてあの手法がどこまで通用するのか、これからが見物だと思う。

これを皮切りに、全国各地で「民主主義・地方分権」を叫ぶ声が飛び火し…といいたいところだが、ちょっと待った。
怖いのは、河村市長が主導した議会解散のリコール運動が、今後他の地域にも及ばないかということだ。

今回市長に当選した河村氏、知事に当選した大村氏はいずれも国会議員経験者である。
本来であれば国とのパイプ役も期待するところであるが、逆に元の所属政党からは双方とも三行半を突きつけられた格好となっている。果たして今後、国とどのような関係を築き上げていくのかが、まず注目である。

今回の選挙は、本来であればよほどのことがない限り解散とはならない市議会に対し、市長自らが自分の公約に反対だ(議決されない)という理由だけで議会解散のリコール運動を煽動したことが、事実上の議決権行使なのではないかと訝る声も少なからずあることを鑑みても、「民主主義」の名を借りた単なる市長対議会の政争に、市民が巻き込まれたと見ることもできる。

既成政党を批判(否定)し、自らが代表を務める政党を立ち上げた河村市長。大阪府の橋下知事や、今回知事選に当選した大村氏がこれを後押しする可能性はかなり高い。

確かに既成政党に対する国民の不信が高まっていることは事実だ。だからといって、その受け皿となるべく自身の権力を振りかざし、片やパフォーマンス的手法で民衆の同意を得るという手法がどこまで通用するか。

人気取りとパフォーマンスだけの政治に嫌気がさしているのは、僕だけではないはずだ。

河村市長は記者会見で「名古屋を民主主義の国、日本をつくるスタートにしたい。名古屋、愛知で起きた減税の勢力を、大村さんとともに全国に広げていきたい。」と名言していた。
既に自ら立ち上げた政党から、市議会の過半数を超える候補者を送り込む勢いのようだ。つまり、次の思惑どおりに事が運べば、名古屋市議会は、市へのチェック機能としての役割を果たすのではなく、市長の諮問機関的な役割を果たすというわけだ。これ、一歩間違えると、市長は専制君主になってしまうわけで…。

そういう意味では名古屋市民が今後、どういう投票行動に出るのかが非常に注目される。

今回の結果を踏まえ、大阪府の橋下知事は、府と大阪市の合併構想に更に躍起になるだろうし、東京都知事選への影響も未知数。
また、名古屋に端を発したこの潮流が全国で巻き起こった時、果たしてこれまでの議会が執行部に対するチェック機能を果たすことができるのか。下手をすれば首長の独裁政治が始まると思うと、末恐ろしらすら覚える。

もっとも今回の選挙は、物事一つ決められない国会や地方主権を進められない国に反発した結果としてのムーブメントなんだろうけれど、4月の統一選まで紆余曲折がありそうな予感もします。ハイ。

TPPに関する私見

TPPを巡る綱引きが、政府や各省庁内部で繰り広げられている。
※TPPとは「環太平洋戦略的経済連携協定」のことです。最近CMで流れている低燃費の親戚ではありません。詳しくはご自身で調べて下さい。

各省庁に言わせれば、それぞれが所管する組織や関係者団体、生産者などへの影響を第一に考えるのは当然である一方、それぞれの思惑が働いた結果、国内の足並みが全く揃っていない。

TPPに頑なに反対する人たち、特に農林水産業に従事している人にとっては、国内市場を脅かされることへの懸念等から反対しているものと思量される。
ただ、例えば日本の機械や工業製品が世界各国で重宝されるのと一緒で、仮に日本の農産物の輸出が自由化されれば、間違いなく重宝されることだろう。

一つ怖いのは、淡水で繁殖した外来魚のように、輸入農産物の生命力が国内の農産物を脅かすようになったり、農産物には見た目だけでは産地が判別できないため、日本産と偽った農産物が国内外で出回り、信頼を落とすようなことにならないかということ。
また、鳥インフルエンザの拡大が懸念されている昨今、TPPの議論の前に、まずは鳥インフルエンザの封じ込めをどうするか、ということがまずは最大の課題。あ、でも同じ課題を持つ近隣各国と連携しながら封じ込める、という方法もアリか…。

機械や工業製品と農産物が異なるのは、機械や工業製品は技術を盗むことで模倣あるいはそれ以上のものを作ることができるが、農産物の場合、いくら技術を盗んでも、その地域の土までも変えることはできない。

裏を返せばそれは、それぞれがその風土に合った農産物を育てているわけであって、必ずしも日本産の農産物が海外で重宝されるかと言えば怪しいところもある。ただ確実に言えることは、日本の農産物は屈指の「安全・安心」という信頼が付加価値となるはずだ。

確かに海外から安価な農産物や工業製品が入ってきた場合、消費者の動向がそちらに動く可能性は否定できない。ただ、今の日本人の指向を考えれば、いずれ国産品に戻ってくると思われるし(最近ではペットフードですら「国産」の文字が躍っているぐらいだから)、海外に市場が広がることを考えれば、それほど損失は大きくないのではないだろうか。

正直僕は、日本もTPPに参加して「攻め」の姿勢を貫けばいいと思うのだけれど、当事者に言わせれば「そんなの他人事だ!」といって怒られそう。ただ、日本の技術力を持ってすれば、海外と対等以上に渡り合えると思うんだけどな。

(財)日本相撲協会と公益法人化

ここに来て、財団法人日本相撲協会が再び大きく揺れている。暴行、大麻、野球賭博に続き、これまでも噂されてきた八百長疑惑で決定的な証拠が出たため、春場所の開催にまで影響を及ぼしそうな勢いだ。

ところで、日本相撲協会は「公益財団法人」への移行を目指している。
制度改正により、平成20年11月末時点で存立していた財団法人・社団法人は、「特例民法法人」という扱いになり、平成25年11月末までに「公益法人」あるいは「一般法人」のいずれかへの移行手続をしなければならず、もしこの手続が為されなかった場合は、法人は自動的に解散、ということになる。財団法人である日本相撲協会は、税制優遇等の恩恵を受けることができる「公益財団法人」を目指している。仮に「一般財団法人」への移行となった場合は、ある程度自由な活動が認められる一方、収益や基金の運用利息などが課税対象となる(つまり一般企業とあまり変わらない)。

公益法人への移行に向けては、内閣府に設置されている「公益認定等委員会」に諮問され、委員会は申請内容を審議し、定款の変更の案が公益法人法並びにこれらに基づく命令の規定に適合しており、かつ公益法人認定法第5号各号に掲げる基準に適合していること、認定法第6条の欠格事由に該当しないこと、そして旧主務官庁の監督上の命令に違反していないことが認められれば、認定基準に適合している旨の答申を行い、それを踏まえ、行政庁が申請法人についての認定処分を行うものとなっている(ちなみにこの組織のトップは蓮舫大臣)。

どんな認定基準があるかというと、

一  公益目的事業を行うことを主たる目的とするものであること。
二  公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎及び技術的能力を有するものであること。
三  その事業を行うに当たり、社員、評議員、理事、監事、使用人その他の政令で定める当該法人の関係者に対し特別の利益を与えないものであること。
四  その事業を行うに当たり、株式会社その他の営利事業を営む者又は特定の個人若しくは団体の利益を図る活動を行うものとして政令で定める者に対し、寄附その他の特別の利益を与える行為を行わないものであること。ただし、公益法人に対し、当該公益法人が行う公益目的事業のために寄附その他の特別の利益を与える行為を行う場合は、この限りでない。
五  投機的な取引、高利の融資その他の事業であって、公益法人の社会的信用を維持する上でふさわしくないものとして政令で定めるもの又は公の秩序若しくは善良の風俗を害するおそれのある事業を行わないものであること。

…などなど、全部で18項目が法律には列挙されている。

そこで一つ大きな鍵を握るのが、旧主務官庁たる文科省ということになる。文科省は日本相撲協会に対し、財団法人としての資格取消もちらつかせているが、現在の監督官庁という立場にあることから、大なたを振りかざす権限を有している。つまり文科省が監督上の命令を発し、日本相撲協会がそれに従わなければ、その時点で公益財団法人への道は、事実上閉ざされるということになるのだ。
日本相撲協会に対しては、文科省も監督官庁としてこれまで立入検査等を行ってきているはずなのだが、さすがに八百長までは監督の範疇ではなかった、ということだろうか。

しかし笑えたのは、ネット上での意識調査で、今回の八百長疑惑がどれほどの驚きを与えたかというお題があったのだが、半数以上の人が「全く驚かない」と回答していたことだった。裏を返せば、何を今更…といったことなのだろう。

放駒理事長は八百長メール疑惑が発覚した当初、「これまでなかったことであり…」と苦々しい表情を浮かべながら発言をしていたが、これだって見ていても、確かに何だか興醒めするような内容だった。むしろ「すいません、実はやっていました!」と認めた方がスッキリしたのだろうか。

今回は一部の人たちの関与が発覚したが、彼らの思いつきで八百長が始まったとも考えにくいところもあり、やはり古くから慣習的に行われていた、と見るのが当たり前のような気がする。
まぁそうなれば相撲そのものがいわゆる「ガチンコ勝負」ではなく、一部の取組については最初からシナリオのある出来レースだった、ということにもなりかねない。しかし、指南役とされている力士については事細かな取組指導をしていたようで、考えようによっては凄い脚本家のような気も…。

相撲の八百長そのものが何故悪いことなのか、と疑問を呈する声も少なくない。実際、7勝7敗で千秋楽に臨んだ力士が、既に勝ち越している力士を豪快に投げ倒し、なんでその相撲を今まで取れなかったんだろう、というシーンを見たことがある人もいるのではないだろうか。八百長がファンへの裏切りだ、と怒りの声を上げる人もいるが、問題はそこに金銭授受があったということなのだろう。

以前、八百長を告発した週刊誌を相手取り訴訟を起こし、多額の賠償金を受け取っていた日本相撲協会。その賠償金の一部が、八百長相撲の原資になっていたのかも知れないと思えば、笑うに笑えない。

今回名前の挙がった力士の中で少なくとも野球賭博で謹慎処分を受けた者については、調査が明らかになった時点で、より厳罰に処されるべきだろう。
「日本相撲協会」がもはや外人力士を多数抱える「世界相撲協会」となっている昨今、財団法人であり続け、国の恩恵を受けることは、もはや時代にそぐわないということだろうか。

この際、ここは膿を出し切った後に、思い切って協会自ら財団法人を返上するぐらいの気概をもった方がよいのかも知れない。相撲道で飯を食ってきた人たちだけで物事を考えたところで、それ以上の話が出るはずがない。いくら外部委員を入れても最後にはその意見に耳を貸さないのだから、もはや手の打ちようがない。

なので、このあたりで神事としての大相撲を返上し、女人禁制解除となった土俵上では、両国が生んだ女性相撲アイドル「RGK48」のステージに始まり(というか女人禁制といいながら、委託業者の清掃のオバちゃんが土俵の上を箒で掃いていたという話を聞いたことがあるんだけど)、取組前には、出場力士によるボール投げならぬ塩の入った「厄除け袋」投げ。
これまで福祉相撲や巡業で行っていた初っ切り、相撲甚句ももちろん披露し、毎日が「エンターテイメント」化。取組のマンネリ化を解消するため、相部屋対決も当たり前に行う他、怪我を減らすために15日間のうち幕下以下の力士よりちょっと多い9日程度の星取で優勝を決定する
こととして、取組のない各国の力士はそれぞれ母国料理を振る舞う茶屋を開設。
大相撲春場所ではなく、大相撲春のショー!それはそれで楽しそうだけど。…って、不謹慎ですかね。

あ…公益法人化の話と全然ずれちゃいましたね。すいません。